対談
第53回:(株)HCI代表取締役社長 奥山浩司(剛旭) ×5つ星お米マイスター/山下治男さん
人を大切にする志(最終話)
昨今ではグルテンフリーといって小麦粉に含まれるグルテンを含まない食事を求める人も増えています。しかもドイツやフランスにニーズがあるといいます。そこで山下さんはヨーロッパへ輸出する米粉を農家と共につくり、外貨を稼ぐプロジェクトに取り組まれています。一方、奥山社長はサイバーのAI・IoTとフィジカルのロボット技術が融合した、サイバー・フィジカルで外貨を稼ぎ、日本の製造業を守りたいと考えています。業種は違えども、希望を感じられる未来を創るためにはどうしたらよいかを語っていただきます。
宮西: 将来的な展望について教えてください。
山下: この仕事をして15年目ですが、業界を見回してもコロナ前にインバウンドで適当なものを適当な価格で販売していたところは、コロナ禍では存続できませんでした。しかしきちんとしたものをきちんとした形で売っているところは、いくらコロナ禍といえども、くたばることはありません。そういう意味で今後もきちんとした形での仕事を続けていきたいですね。また今、特に注目していることは米の粒ではなく粉の使い方です。例えば稲の生育にもさまざまな条件があります。穂が長い場合、太陽の光の当たり具合によって米粒の状態に差がでます。つまり使える部分と使えない部分ができてしまうことがあるのですが、そのような場合、粒で食べるとおいしくないけれど、粉にしてパンなどに形を変えたら味わいも異なってきます。それを必要な人に届けたいというのが、ひとつのヴィジョンでもあります。
山下: 例えば今、注目されているのがグルテンフリーです。もちろん小麦粉は小麦粉でおいしいし、私の嫁はハンバーガーショップを経営していますが、小麦粉アレルギーの人も現実にいます。そこで米粉の役割が登場します。小麦粉が食べられない人がいる国で一番ほしがっているのがドイツとフランスなんです。日本の米はこのようなところにまで達することができわけですから、海外向けとして、粉にしてヨーロッパに輸出し、小麦粉アレルギーで困っている人に食べてもらいたいと思っています。フランスパンでも目的によっては米粉を使うことも可能でしょう。そのようなところまで米マイスターとしてかかわっていきたいですね。すでに料理研究家と出版社の光文社とタイアップして新しいプロジェクトを動かしています。
奥山: それは海外のグルテンフリーを求める人にとって吉報ですし、日本の生産者に対しても、収入が増えるために彼らを守ることになりますね。
山下: 本当に欲しがっている人、身体が必要としている人たちに対して提供していきたいと思いますし、海外の市場で日本を潤すことができます。
山下: もうひとつ、大きなヴィジョンとしては、教育と組んでいきたいことです。例えば農業高校に対して、高校生が作るお米甲子園を提案したい。教育機関ですから、営利目的だと使えないような企業の協力も得られるでしょう。例えば水をナノ化していくなど、そのような取り組みに夢があるのではないかと思います。せっかく農業高校で学ぶのですから、その道で夢をもってほしいし、既存の農家の方にも農業を活性化できるモデルとして高校での取り組みをしていきたいと思います。
今はすでに熊本の阿蘇中央高校にはよく行っていますし、そのほかの高校からもオファーがきています。彼らの作った米は六本木の一流レストランで使われていますが、それが現地で農業に携わっている高校生たちにとってどれほどの励みと自信になっていることか……。昨年は3、4校を訪れて話をし、絆づくりをしました。
奥山: 学校の話が出ましたが、実は自分もロボットアイデア甲子園というロボコンを開催しています。それは協会での取り組みですが、目標は47都道府県で開催すること。2年前に始めて最初は日本全国8地区で行いました。去年は17地区で行うことになっていましたがコロナ禍で開催できませんでした。でも今年は19地区で開催します。そのような取り組みからわかったことがあります。工業高校であれば、本来ならば最先端のロボティクスを学ばなくてはならないわけですが、残念ながら工業高校には最新のロボットがないのです。学校の先生もロボットのない状態で、教鞭をとられていらっしゃいます。しかし最先端のロボットやAIを実際に見て、触れて、学ばないと最適な指導などはできないはずで、先生方には日進月歩で進化するロボットやAIの最先端の技術を学んでいただきたいと思っています。そこで弊社は泉大津市にロボットセンターを設け、予約制で見学できるようにしています。現在、弊社には35台のロボットがありますが、そのうちロボットセンターには9台あります。それを学生たちに見てもらい、ロボットって凄い!という感動をもってもらいたいと思っています。山下さんが農業で素晴らしい人材を輩出したいと願っているのと同様に、我々も啓蒙活動を通して、ロボットシステムインテグレータやAIシステムのエンジニアを輩出していきたいと思っています。
奥山: 加えて、今後のロボット業界については、長年、右肩上がりでありましたが2019年に一時下がりました。これは米中の経済摩擦や韓国の不買運動などが原因ですが、実は2020年のコロナ禍でロボットの需要は上がり、2019年よりもロボット(マニピュレータ)の生産・販売台数は増えました。 これは、人と人とが接触しない、ニューノーマル社会においてロボットが必要とされている結果でもあります。これからも続くVUCAで不安定な時代においても求められるのはロボットであり、AIです。
現在、AIはネット環境が整い、ビッグコンピュータが活用しやすくなり第3次AIブームを迎えています。そして、ディープラーニングが開発されてからAIは飛躍的に商売に使われるようになりました。これから先30年は間違いなくロボット・AIシステムの需要が続いていくでしょう。
奥山: 今まで日本の産業を牽引してきたのは、トヨタなどをはじめとした自動車産業でした。ところが自動車がエンジンからモーターに変わり、テスラのような自動メーカーが躍動し、若い世代は車に乗らなくなりました。自動車産業が従来のように右肩上がりの状況ではなくなっていると言えます。
しかし、日本はわずか50年前からスタートしたロボット産業において、ロボット大国として世界を牽引しています。現在も産業用ロボット(マニピュレータ)の生産台数は1位なのです。日本にはそれだけ凄い技術があるわけです。しかし、このロボットをダントツに活用しているのは中国なのです。また、サイバーに関しては、言うまでもなく米国のGAFAをはじめとした世界に、日本は圧倒的に負けました。しかし、フィジカルに関しては、日本が勝っているのです。これからはデジタル技術を活用して、人手不足においても人とエネルギーの最適化と少量多品種生産をマス・カスタマイゼーションでメリットをだす、スマートファクトリー(賢い工場)を造っていき、サイバーとフィジカルが融合した、サイバー・フィジカルにてグローバル・ニッチで日本の製造業を守り、同時に外貨を稼いで、国力を高めるべきであると考えます。
山下: それは素晴らしいです。
奥山: ありがとうございます。私も山下さんのお話にすごく共感ました。是非ともこれからもよろしくお願いします。(最終話終了)
コメント
自分の専門分野でより高みをめざし、多くの人に喜んでもらいたいというお二人の考えは、いろいろなところで一致していました。教育面でもお互いに考えていたのが、お米の甲子園とロボットアイデア甲子園。お二人が語っているように、人を大切にして、多くの人が喜ぶ社会を作る志はとても強いもので、未来に光明を感じました。