対談
第29回:(株)HCI代表取締役社長 奥山浩司(剛旭) × 一般財団法人国際人材普及推進協会理事長 ファースト・スタディ日本語学校校長 松岡将裕校長
外国人材の受け入れと共生(第2話)
今回は、HCIで働く外国人従業員の方について、素晴らしいと思ったこと・困ったことなどを掘り下げて語っていただきました。思わぬカルチャーショックのエピソードでは、風習の違いを実感されたようです。松岡校長には、ファースト・スタディのさらなる取り組みについて聞きました。
宮西: 奥山社長は実際に3か国の外国人従業員と接してどのような感想を持たれていますか?
奥山: ベトナム人とミャンマー人、ブータン人と3か国の方にきてもらっていますが、6年間接しているのはベトナム人です。彼らはまじめで素直ですね。時にベトナム戦争の影響を感じることもあります。というのもベトナムでは戦争で亡くなった男子が多いために、男子が生まれると非常に大切に育てられるのではないでしょうか? それにより男子より女子のほうが強い傾向があるように感じます。またフランス植民地の影響もあるのかもしれませんが、自己主張が強い部分もあるようですね。驚いたことは、最初に入ってきたベトナム人は、出社した日に会社に入るや否や、いきなり食堂に行き、カップラーメンを食べ始めました。それを見咎めると「お腹がすいているから食べる。何がおかしいの?」というわけです。これには驚いてしまいましたね。
松岡: なるほど。それは現地では不思議なことではありませんよ。ベトナムでは会社の前の道路にお粥や朝食になるような食材がおかれた屋台がずらりと並び、会社に入る前に屋台で腹ごしらえをしていくのが生活習慣になっています。家で食べていかないので、お腹がすいているわけです。しかし御社の前には屋台がなかったので、彼は食堂に行って食べたのでしょう。
奥山: 自分達は日本の常識で判断し、非常識だと彼を叱責するわけです。しかし彼らでは、どうして咎められているのかわからないわけです。ここは日本国であり、HCIは日本の企業である、従って、日本のルールで働いてもらわなければならない、そのように教育してきましたが、まぁ最初は大変でした(笑)。その反面、ベトナム人会などをつくり、彼らの習慣などを知る努力もしてきました、その効果はあったのではないでしょうか。
宮西: 国際間の考え方では日常生活で当たり前と思ってやっていることが、他国では全く非常識だとみなされることもあり、関係性が悪くなることもあるわけですね。
松岡: このような問題をなくすために我々は日本と外国の習慣の違いを徹底的に教育します。日本語を教育しているだけでなく、どちらかといえば日本企業の常識に則って働ける人材を育てていると自負しています。つまり文化教育、常識教育に力を入れているわけです。
奥山: それは大変助かります。外国人従業員を雇うことで、このような日常的な生活習慣から全て教えていかなくてはならないのは非常に労力が必要。企業、特に中小企業は即戦力を求めていますからね。また、ベトナム人にとっても、日本の常識を何も知らずに来日し、様々なカルチャーショックを受け退職するなどはお互いにとって不幸なことです。しかも、そのようなことを聞いた他のベトナム人は、日本の企業へ勤めたいと考えるでしょうか? HCIだけではなく、皆が優秀な人を採用できなくなるのは避けたい、そのようなことが無きよう、取り組んでもらえている松岡校長に感謝します。
宮西: HCIにはブータンやミャンマーの方もいらっしゃるとのことですが、また性格や勤務姿勢などは異なりますか?
奥山: ブータン人は全く異なりますね。まじめで勤勉ですが、かなり内向的だと思います。話をしていても、思っていることを表現してくれていない気がしますからね。
松岡: 仏教、ヒンズー教、イスラム教などの宗教教育が強い国の特徴として、目上の人に対する絶対的な服従があり、目上の人に対しては軽々しく口を開かなくないというような風潮があります。戦前、そして昭和20年代、30年代の人が育ってきた環境、古い時代の日本とある意味では似ていると思います。昔の日本人は目上の人のいうことには従順で、意見もいわなかったですからね。ましてや逆らうなんてとんでもない話でした。そう考えると、ブータンやミャンマーのように宗教色が強い国からきた人は、特に社長である奥山さんに対しては、恐れ多いという感情を抱いて緊張して思うように言えないのではないでしょうか?
奥山: 確かにそうかも。自分はベトナムの文化についてより深く理解したいと思い、昨年までは、ビジネスとあわせ、半年に1回ペースでベトナムを訪れて見聞を広めてきました。しかし、それ以後は日本ロボット工業会、FA・ロボットシステムインテグレータ協会などロボット関連の業務が多忙になったために、なかなか時間がとれなくなってしまい、ベトナムには訪れていません。しかし、ブータンやミャンマーなども訪れ、文化について学びたいと考えています。様々な国の文化や考え方を知るのは、グローバルに対応できるロボット&AIシステムを開発していく上で、とても大切なことだと思います。そして、ファースト・スタディさんという強力な助っ人が現れたので、今後は、様々な国籍の優秀な方を雇い、多国籍企業としての展開を具現化していきたいですね。それは、自分が目指している世界観でもあり、どんな会社になっていくか凄く楽しみ。
宮西: 外国人従業員の方の技術はいかがですか?
奥山: 恐らく、現地の学校では優秀な成績を修めていると思います。しかし残念なことに、その教育現場には最新の教材がないのです。最新仕様のロボットやPLC(programmable logic controller=制御装置)、パソコンなどの教材がない現場で卓上の、あるいは10年以上も前の技術を勉強しているので、「自分はできる」と自信をもっている高度外国人が1から勉強をしなければならない、つまり勉強してきたことと現場の乖離が大きすぎるのです。それはある意味仕方のないことなので、HCIでは、いちから教育し、勉強していただいています。自分達が保有しているような最先端のロボットを見て、触れ、学んできた人材と巡り合うことなどないですね。これは海外ばかりではありません。最近、日本の高校や教育庁にも足を運んでいますが、そこで感じるのは海外の教育現場と同様、最新のロボット他教材が教育現場にない。そこで即戦力になる優秀なロボットSIer、エンジニアを育てられるかとなると、できるわけがありません。そう考えると日本人も外国人も最先端のロボット教育を受ける場所がないという意味では、状況的にあまり変わらないのではないかと思いますね。このことについては、FA・ロボットシステムインテグレータ協会や経済産業省ロボット政策室の皆さんとも議論をしていますが、日本の高校や教育現場には、HCIのようなロボットSIer企業が教師の皆さんや学生さんに教育させてもらえるような仕組づくりが必要ではないかと考えています。
(第2話終了)
コメント
外国人従業員の母国を理解するための奥山社長の試みに加え、最先端のロボットやAIの教育が現地ではなされていないという事実。それは何も海外のみならず、日本の教育の現場でも最先端のロボットやAIなどの教材がないという現実。教育と現場の乖離についての発見とその解決策は今後の大きな課題となりそうです。第3話はいよいよお二人のヴィジョンを語っていただきます。(最終話につづく)