対談
第41回:(株)HCI代表取締役社長 奥山浩司(剛旭) ×国立研究開発法人産業技術総合研究所 加藤智久研究チーム長
豊かな生活を生み出す役割(最終話)
大学の同級生が再会し仕事について語り合うという楽しくて有意義な加藤さんと奥山社長の対談も今回で最終回。今、激変していく世の中にあって、これからどのように変化していくの? 社会、技術、AIのことなどについて語っていただきました。
宮西: それでは今後のヴィジョンなどを教えていただけますか?
加藤: 産総研では、これまで30年以上にわたって、次世代の半導体材料として期待されているSiC(炭化珪素)に代表されるワイドギャップ半導体を利用したパワー素子/電力変換器技術に関する研究開発を進めてきたという歴史があり、多くの企業と連携しながら材料結晶から応用機器に至る領域の活動を推進することで、次世代パワーエレクトロニクス技術の確立を目指してきました。
そして今後の研究開発は、産総研で発足させた大型の共同研究体「つくばパワーエレクトロニクスコンステレーション(TPEC)」に技術開発の活動の軸を置いてスピード感のある技術開発をやっていこうと私は考えています。
その活動を通じて、スマート社会をもたらす新しいパワーエレクトロニクスを早期に実現できればと思っています。
宮西: ここでいう「コンステレーション」とは、具体的にどのようなことでしょうか?
加藤: それぞれ特徴的な技術開発を行う企業・開発機関の集まりという意味です。
加藤: TPECは国のプロジェクトではなく民間のお金で仕事をしていることになります。産業化するには材料も装置も大切ですので、最後にはそれぞれの分野の人が互いに連携し合うことで技術が完成していくことになります。TPECではそういった連携開発を促進することで、最先端かつ実用レベルの技術を迅速に開発できる環境を提供しています。
とはいえ、今、私たちがやっているところはスマート化技術のごく一部で、電力エネルギーの高効率変換技術のところです。でも電力エネルギーには、発電する創エネ技術。送る送電技術などがあり、今後、これらが組み合わさって広い分野を融合させていく必要があるんですよね。
奥山: どのくらいの企業がTPECに参加しているのかな?
加藤: 当初TPECへの参画を表明された企業は16社だったけれど、2019年度の初めまでに25社程度まで増えました。さらに下期になって私の方で材料分科会を新たに発足をしたので、現在参加している会社は約40社くらいにまで大きくなりました。私自身がこの産総研に20年いますが、基礎研究が主体だった頃から比べると時代とともに我々の役割も変わってきました。今や低コスト、高信頼を担保する技術開発が求められているね。
奥山: 自分の大きなヴィジョンは常に「世界平和」と「人類救済」だと言っていますが、今までの歴史を振り返ると、戦争の大きな要因にエネルギー問題があるので、加藤たちの研究は日本や世界に大きく貢献するのではないかと思う。
宮西: 確かに小さいうちからエネルギーに関心をもってもらったらいいですね。
加藤: 現在、エネルギー効率や環境問題については、小学校でも授業で学んでいます。社会科、科学、物理などの授業で学んだりするかもしれませんが、大切だと思われるのは日常生活の中で無駄にしないように電気を使うことですね。
とはいえ今後の研究・開発によっては、生活レベルでの無駄はそれほど大したことでなくなるかもしれません。もちろん電気を大切に使うという価値観は必要だけれど、そこまで気を使わなくても、研究開発の結果、電気を自動制御するなどの新しい技術が管理してくれる時代になったら嬉しいし、そのようにエネルギーを使える世界にしたいと考えています。
宮西: それでは奥山社長の抱負を教えてください。
奥山: これからの日本社会は、少子高齢化も進み、ますます働く人がいなくなっていく……。中小企業は特に企業存続の危機となりますが、ロボット&AIシステムによりピンチをチャンスに変え、盛り返していただきたいと思っています。まさに人手不足問題に対して、日本のGDP国内総生産を維持し、日本国民の生活水準が下がらないようにすべきで、それこそ、ロボット&AIシステムが不足する人手を補完すると考えています。それは世界の工場を日本回帰することに繋がります。その反面、日本は突出した「ものづくり」で、その製品を輸出し、外貨を稼いできた国。21世紀はロボットの時代と考えており、ロボット&AIシステムが自動車産業に変わるような未来を描いています。
また、FA(ファクトリーオートメーション)では、少しずつAIを採用しており、HCIも検査の部分ではAIを販売させていただいています。今まで5人の検査員が検査していたところをAIの活用により4人、3人と人の負荷を減らすことができています。
加藤: それは楽しみだね。
奥山: とはいえ今、自分が携わっているのは産業用ロボット、いわゆるアームの部分を使いシステム化している。でも、いずれヒューマノイドロボットを開発していくことによって、もっといろいろなことができると思います。具体的には5年後には、ロボットシステムインテグレータとしてヒューマノイドロボットを世に出していきたいですね。
奥山: 自分はロボット技術やAI技術が世の中に貢献できると思って開発しているし、国は人の生活向上を具現化するロボットに巨額なお金を投下してほしいと思っています。すでに経産省などに働きかけることで、一部、理解を示してくれている部分もありますが、まだまだであると考えています。残念なことにロボットを悪く使おうと思ったら悪く使える。巨額なお金を投資し、人を投入し、軍事力として兵器目的のロボット開発を行っている国に対しては、技術を磨き、いざという時のために力を備えておくことも必要だと思う。
宮西: 諸刃の刃となりますね。扱う人によって、世界平和にも戦争にもなるということですね。
加藤: 確かにその通りだね。私も自分の研究成果で生活の余裕とか豊かさを引き出せるようになればと本望です。使いやすさ、利便性が結果的に、人々の生活につながり、効率をよくしていくことにつながるようにしたい。それが技術者の役割だと思っています。
宮西: お二人のお仕事は私たちの生活を豊かにしてくれるという共通点がありますね。
加藤: 仕事としては意外に密接しているね。私は電気で奥山は機械。互いの技術を必要としているよね。
奥山: 既に仕事の分野では見えないところでコラボしているかもしれないけれど、実際に目に見える形で加藤と仕事をしているという実感があったら嬉しいね。
加藤: いずれ御社の工場の電気代が下がったら、それは実感するんじゃないかな?
奥山: これは加藤のおかげかと。(笑)
加藤: おかげはちょっとおおげさよ。(笑) まだまだやれることを頑張らないといけないけれど、何か電力効率の良さが現象として現れたとき、僕の仕事を思い出してくれるときが必ずくると思う。それにしても昔の友達が立派になっているのは本当に嬉しいものだね。
奥山: 加藤にはノーベル賞をとってもらいたいな。
加藤: いやいや、こんな仕事はノーベル賞は無理よ。(笑) 誰も思いつかなかったことを発明した人に与えられる賞だからね。
奥山: でも研究していて、あっと、気が付くことがあるかもしれない。(笑)
加藤: そういうことになれば、それは研究者冥利だね。
宮西: 同じ大学を出て30年後にこのような対談ができるって素敵なことですね。本日は本当にありがとうございました。(最終話終了)
コメント
それぞれ30年という年月をかけて培ってきた経験と技術。そこにはさまざまな歴史が刻まれていることでしょう。今、社会の第1線で活躍しているお二人は自信と希望に満ち溢れ、未来の世界についての明るい話が尽きません。お互いの技術を生かしあい、多くの貢献をしていただけるとは、本当にありがたいことです。こちらまで嬉しくなる対談でした。次回は東京大学ロボット化コンソーシアムの佐藤知正さんとの対談です。お楽しみに。