対談
第73回:(株)HCI代表取締役社長 奥山浩司(剛旭) ×ファナック株式会社専務執行役員ロボット事業本部長 稲葉清典さん
現在の活動と取り組み(第2話)
現在、ファナックでは基本技術であるNCとサーボ、レーザからなるFA事業、その基本技術を応用したロボット事業および ロボマシン事業を展開しています。そしてIoT/AI技術をFA・ロボット・ロボマシンの全ての分野に積極的に適用しており、ファナック商品をより効率的に利用できるように取り組んでおられます。また生産財のサプライヤーであるという原点に立ち、ファナックの商品を使うお客さんのために保守サービスを提供し続けています。そのような取り組みと奥山社長の取り組みについてお話をしていただきました。
奥山: 御社では「商品」と「製品」という言葉を使い分けていると聞きましたが……。
稲葉: あくまで弊社の定義になりますが、「製品」工場などでつくる「物」。「商品」はお客様に喜んでもらえる、お役に立てる「物」であるという考えです。この「商品」を生み出す上で必要なものの一つが、今、市場で何を求められているのか、各市場のニーズになります。本社だけで全世界のニーズを正確に把握するのは難しいため、世界各地域のセールス、技術部門とのコミュニケーションを活かして精度の高いマーケット情報を取ってゆきます。地域軸の連携だけでなく、事業軸の連携においても力を入れています。FA・ロボット・ロボマシンが一体となったトータルソリューションの提供、特にCNC工作機械とロボット、ロボマシンとロボットとの連携を重要テーマの一つと捉え、商品を開発しています。
稲葉: もうひとつ、意識していることは「タイミング」です。早過ぎずに、遅過ぎずに、タイムリーに出すタイミングが重要だと個人的には思っています。
奥山: タイミングからずれた物は同じ「商品」でも「製品」になってしまうわけですね。御社が協働ロボットを出されたタイミングは絶妙だと思いますが、次にCRXシリーズを一気にだされたタイミングもすごかった。国際ロボット展に並んでいる姿をみて感動しましたよ。
稲葉: お蔭様で、あのロボット展はすごく反響がよかったんです。現場が今、求めているタイミングでしたし……。ここで出すのがいかに重要かということを開発チームが分かっていて、各地域のセールスチームから猛烈なプッシュもありました。リリース後は販売しなければならないという責務もありながらも、セールスチームも確信を持っていました。そのような開発・セールスの信頼関係、切磋琢磨する関係を心強く感じます。
稲葉: 商品をタイミング良く投入するだけでなく、お客様に安心して使っていただくことも重要であると考えています。お客様の活動は世界各地に及ぶため、国内、海外各地にサービス拠点を築き、それぞれの拠点において、同一レベルの保守サービスを提供できるように努めています。
奥山: どのくらいの国に広がっているのですか?
稲葉: 268のサービス拠点が107の国にあります。
奥山: それが「サービスファースト」!
稲葉: ありがとうございます(笑)「サービスファースト」を社是に掲げています。そこでは、お客様が弊社の商品をお使いいただく限り保守する、生涯保守の概念も含まれています。
また、商品ニーズは世界中のサービス経由でも入ってきます。メンテナンス、交換のしやすさなどの商品ニーズ情報は貴重な情報であり、開発に大きく役立っています。
奥山: 本日の工場見学で感動したことですが、現存する機械の修理のためにたくさんの在庫を抱えているのにはびっくりしました。
稲葉: 世界中で、製造中止となった旧部品を含め17,000種類・300万個を超える修理用部品のストックがあります。
奥山: それはすごいですね!
稲葉:もともとはCNCビジネスから始まった概念でした。工作機械の一部であるCNCが交換できないことにより、機械ユーザ様が機械そのものを買い替えなければならないことはご迷惑をおかけすると考えた背景があります。また万が一、部品のストックがなくなった場合でも、代替可能な部品を探して再設計する体制を取っています。
奥山: 長い歴史を誇る御社のモットーを教えてください。
稲葉:ご覧いただいているHPにある通り、弊社では基本理念として「厳密と透明」を掲げています。企業の永続性、健全性は「厳密」から生まれ、組織の腐敗や企業の衰退は不透明から始まる、と考えています。シンボルである欅の木には、小柄でもがっしりと逞しい巨人のごとき逞しさがある企業にファナックを育て上げていこうではないかという企業理念が表されています。新しい技術を常に追ってゆくという姿勢は、変化の大きい現在においても重要であると改めて感じます。
奥山: 技術者には過去はない。ただ創造あるのみということですね。
稲葉: 名誉会長の言葉ですね。「10倍速く回る時計」を名誉会長が社長時代に研究所にプレゼントをしたことがあります。秒針だけの時計なのですが、通常の時計の10倍速く回る時計でした。
奥山: そのコンセプトは名誉会長がお考えになられたのですか?
稲葉: そうです。開発のメンバーにとって、商品開発のタイミングや開発速度の重要性を意識させることが目的だったと聞いています。
奥山: 自分も常に10倍速を意識して開発していたと思いますね。 最初は髪の毛よりも細いケーブルを撚るということを熱意と執念で(笑)開発し、2年で何とかしようと制限をつけ、時間軸を正に10倍速にし、必要な時に必要なものをタイムリーに出そうと努力してきました。ロボットに関しては、手掛けてからまだ15年ですが「ケーブル自動整列巻取ロボットシステム」をこれまた2年で開発しました。できたものが売れないと社会にも寄与できませんので、名誉会長が提唱された「10倍速く回る時計」の考え方にはとても共感します。
稲葉: 創業者は、すごい執念を持っていると思います。「やりきる」という点で、奥山社長と名誉会長には同じような執念を感じます。
奥山: 恐縮です。レベルは全く異なるものの、私もそのような思いで創業させていただきました。今後もファナックさんの技術を学ばせていただき、世の中をよくしていきたいと思います。
コメント
自社の商品に信頼のおけるこだわりと使いやすさを目指す執念。そしてそれを発表するタイミング。「10倍速く回る時計」との闘いで開発していく姿と考え方に大いに盛り上がった対談でした。次回はいよいよ最終会、お二人のビジョンについて話していただきます。