対談
第8回:(株)HCI代表取締役 奥山浩司(剛旭) × 熊田篤嗣
ロボットの可能性と課題(第4話)
2011年3月11日の東日本大震災は、日本のみならず世界に大きな衝撃を与えました。福島原発事故で放射炉の修復に一役買ったロボット。技術の強さと弱点・課題を背負い、尽力を尽くした体験をお話いただきました。
宮西: お二人は「ロボット」というキーワードでもご縁があるようですね。まずはロボットとの関わりを教えてください。
熊田: 私は東日本大震災の時にロボットとの出会いがありました。現職の代議士で与党にいたころ、福島原発の事故があり、その対策のために東電総合対策本部ができたのです。国レベルでは経産省、文科省などの管轄、地元では消防庁や防衛省も配置されました。東電もオペレーションはしますが、原発でいえば大成建設など土台を作った会社や炉を作った東芝・日立などの会社も集まるという集合体でした。緊急事態で組織立てている時間もないために、議員が間に入って調整係をしたのです。そこでリモートコントロール科というチームができ、僕が代表のサポート役となりました。
宮西: ここでロボットが活躍するのですね。
熊田: 原発の事故現場は放射線の濃度が高いので、人は入れません。しかも放射能を外にもらさないための壁があるので、ラジコンの電波も無効です。そこでロボットを使ってまずは中の状況を調査しようというところから始まりました。とはいえ実際は、そんなに簡単ではありません。そもそも災害に役立つロボットがありません。もともと災害や事故などを想定したロボットなどは作っていませんからね。それに中の災害現場では爆発があったわけですから、設計図どおりではなくなっている可能性があります。ロボットは自分で判断して奥まで進んでいかねばならず、途中にコードがある可能性もあり、それが引っかかってもいけない。途中で事故があり、そのまま戻れなければ粗大ごみになってしまいます。また戻ってこられたとしても、充電やメンテナンスをするときに、うっかりさわった人間が被ばくするのを防ぐために、メンテナンスフリーで非接触充電させなくてはならないという課題もありました。
当初は米国のエネルギー省とも話をしました。米国には軍隊があり、核戦争があったときの準備として対放化されたロボットが存在します。それを貸し出せないか、対放射能線の技術を教えてもらえないかという交渉もしました。ロボットの貸し出し許可は取り付けたものの、最終的にはさまざまな理由で借りることはできませんでしたが、日本のロボット研究者たちには米国から得た情報を開示し、現状のロボット技術に対応すべく検討しました。まさに泥棒を見て縄を用意するといった泥縄方式でしたが、私はそのまとめ役でした。
奥山: 当時のロボットの研究者の方たちは何人位いたのですか?
熊田: 先生方は20名位いました。
またロボットに関連する各メーカーにも声がかかっていましたね。
奥山: HCIがロボットを作り始めたのは2009年ですから、2011年には間に合いませんでしたね。それにしても放射能対策がからんでくるとなれば、大変な仕事でしたね。
熊田: ロボットの研究者はロボットのことはよくご存知ですが、原発のことまでは熟知してはいません。たぶん奥山社長も原発の中の構造を知らされたうえで、その中に入っていくロボットを作るようにいわれても、炉がどうなっていて、どの部分に燃料があって、どこにどんな階段があってというようなことがわからないと、作成するのは難しいと思いますよ。
奥山: それは相当難しいと思います。実際に中を見てみないとわかりませんしね。
熊田: 当時は福島原発と同じような構造をした炉が中部原発の浜岡にあり、廃炉にするといっていたので、中部電力にかけあい、そこを貸してもらいました。実際にロボット研究者の方々に浜岡原発の炉の中に入ってもらって、現物の原子炉を使いながらの調査を開始し、作業を進めていきました。この時に政府が認める日本のロボット研究の第一人者の先生方とのご縁ができたのです。
私は途中でこの仕事を離れてしまいましたが、今もこのプロジェクトは継続しているようです。随時、新しい型を改良して入れていき、成果は徐々に出ているようですね。
宮西: 今後、様々な予期せぬことも起こる可能性もあるので、研究は必要でしょうね。
熊田: もちろんロボットの技術も大切なのですが、それ以前に政策的な部分でどのような判断するのかということも大切になってくると思います。
奥山: そのような意味でもエネルギーに造詣が深く、ロボットの第一人者たちとも親しく、多くの情報を持っている熊田さんに、ぜひとも音頭を取っていただきたいと思います。トップの方の理解なしでは、いくら技術があっても「猫に小判」の状態ですからね。
熊田: ロボットについては奥山社長からも学ばせていただきたいです。よろしくお願いします。(第4話終わり)